人生のパートナーが他の人と深い関係を持ったと知った時、「絶対に受け入れられない」という強い拒絶感を覚えるのは、無理もないことです。信頼していた人に裏切られたのですから、その衝撃と痛みは計り知れないでしょう。
ですが、様々な背景から、その過ちを乗り越えて関係の継続を選択する人々も、決して少なくありません。ある調査では、パートナーの不貞を「許す」と答えた人が約3割いたそうですが、これはあくまで一般的な傾向に過ぎません。結婚という深い結びつきの中での裏切りは、単なる恋愛関係のもつれとは比較にならないほど、人生に大きな影響を与えます。大切なのは、一般的なデータではなく、あなた自身の状況と、あなたの心がどう感じているかです。
ここでは、もしあなたが連れ合いの不貞を受け入れる道を選んだ場合に考えられること、そして、別れを決断した場合に取るべき行動について、あなたの複雑な心境に寄り添いながら、具体的に考えていきたいと思います。
関係継続を選んだ場合のポジティブな側面
裏切りを知った衝撃の中で、「許す」なんて考えられないかもしれません。それは当然の感情です。怒りや悲しみで、心が混乱していることでしょう。でも、もし可能であれば、少し心が落ち着いた時に、仮に関係を続けるとしたら、どんな良い面があるのか、考えてみることも無駄ではないかもしれません。
これまでの日常を守れること
関係継続を選択する大きな理由の一つに、今の暮らしのリズムや経済的な安定を、大きく崩さずに済む可能性がある点が挙げられます。もし別離を選ぶと、特に家計を主に支えていた側の収入状況が変わるなどして、生活レベルが変化することは珍しくありません。とりわけお子さんがいらっしゃる場合、環境の変化がお子さんに与える影響は無視できません。お子さんの健やかな成長や、日々の暮らしの安定を第一に考え、苦渋の決断として関係継続を選ぶという道もあります。
一時的に関係性で優位に立てる可能性
過ちを犯した側は、罪悪感や「許された」という負い目から、以前よりあなたに対して気を遣い、誠実な態度を示すようになるかもしれません。その結果、一時的に夫婦関係においてあなたが主導権を握りやすくなる可能性があります。ただ、この状況が長く続くとは限りません。人間関係における力関係は常に変動するものであり、あくまで一時的な変化と捉えるのが現実的でしょう。また、力関係に偏りが生じすぎると、かえって対等で健全な夫婦関係の再構築を妨げる要因にもなりかねません。
お子さんと共に暮らせる、親としての立場を守れる
もし、主にお子さんの世話を担ってきた側が不貞を働いた場合、離婚となると親権争いで不利になり、最悪の場合、お子さんと離れて暮らすことになる可能性も否定できません。法的には不貞行為の事実だけで親権が決まるわけではありませんが、大きな判断要素の一つにはなり得ます。「何があっても子どもとは一緒にいたい」という親としての強い願いが、つらい気持ちを乗り越えて関係継続の決断を後押しすることもあります。
財産を分け合う手間や損失を回避できる
もし婚姻関係を解消する道を選ぶなら、結婚生活の中で二人で協力して築いた財産を公平に分ける「財産分与」という手続きが発生します。この財産分与の額は、それぞれの貢献度などに応じて決まりますが、財産の状況によっては、相手に請求できる慰謝料よりも、財産分与によってあなたが失う(あるいは相手に支払う)額の方が大きくなるという、経済的に見て不利益な結果を招くこともあり得ます。罪悪感から財産分与を放棄する人もいますが、権利として主張する人も多く、経済的な損得勘定だけで判断すれば、関係を続けた方が有利という見方も成り立ちます。
関係継続を選んだ場合の乗り越えるべき壁
関係を続けるという選択には、光だけでなく影の部分も存在します。目を向けるのがつらいかもしれませんが、考えられる困難についても知っておくことが、後悔しない選択をするためには大切です。
- 冷え切った関係の継続
- 心の重荷
- 繰り返される裏切りの不安
これらの良い側面と難しい点を天秤にかけ、あなたにとってどちらの道がより納得できるか、じっくり考える時間が必要です。
以前のような心の繋がりを取り戻せない恐れ
関係修復を試みても、表面上は元通りに見えても、心の距離はむしろ離れてしまうこともあります。一度壊れた信頼のグラスは、残念ながら元通りにはなりません。パートナーの言動を常に疑ってしまう、心から信じきれない、という状態が続くかもしれません。また、他の異性と体を重ねたという事実に、生理的な拒否反応を感じてしまうこともあります。愛情や信頼のない相手との共同生活は、想像以上に心をすり減らす可能性があります。
癒えない心の痛みと日々の精神的負担
「許す」と頭で決めても、心に深く刻まれた傷跡が魔法のように消えるわけではありません。もし相手への嫌悪感が根強く残る場合、その人のために時間や労力を使うこと自体が、大きな精神的苦痛となるでしょう。何気ない日常の中で、ふと裏切られた記憶がフラッシュバックし、「また裏切られるのではないか」という不安に襲われ、安らかな気持ちで過ごすことが難しくなるかもしれません。
再び同じ過ちを繰り返されるリスク
関係継続を選択する上で、最も心を悩ませ、決断を鈍らせるのが、再び裏切られるかもしれないという恐怖ではないでしょうか。「一度許された」という経験が、相手によっては「反省すればまた許される」という誤った学習につながり、不貞行為を繰り返すケースも残念ながら存在します。また、今はどんなに深く反省しているように見えても、時間が経つにつれてその気持ちが風化し、再び誘惑に負けてしまう可能性も否定できません。
関係継続を決めたなら、同じ過ちを防ぐために
もしあなたが、苦悩の末に関係を続ける道を選ばれたのなら、二度と同じ悲しみを繰り返さないために、そして今度こそ信頼関係を再構築するために、具体的な行動を起こすことが重要です。ただ感情的に許すだけでは、根本的な解決にはなりません。
まずは、腹を割って話し合う機会を持つ
関係修復への第一歩は、夫婦間でしっかりと向き合い、本音で話し合う時間を持つことです。言いたいことを飲み込んだまま、あるいは相手の反省の深さを見極めないまま関係を続けても、心の溝は埋まらず、再発の火種を残すことになります。特に、以下のような点について、お互いの考えや感情を率直に伝え合うことが大切です。
- なぜ一線を越えてしまったのか?(その背景や心情)
- 私たちの関係に、何か問題はあったと感じるか?(改善すべき点)
- その行為に及んだ時、家族(特に子ども)への思いはどうだったのか?
- これから、二人の関係をどうしていきたいと考えているか?(具体的な意思)
ただし、これは詰問や糾弾の場ではありません。感情的に相手を非難するだけでは、防御的な態度を引き出し、本心は聞けません。できる限り冷静に、落ち着いた環境で、お互いが抱える疑問や不満、そして未来への希望を正直に伝え合い、理解を深める努力が必要です。
『次』があった場合の取り決めをしておく
どんなに真剣に謝罪し、反省の態度を示していても、「もう二度としない」という保証はどこにもありません。一度失われた信頼を完全に回復させるのは、言葉だけでは難しいでしょう。
そのため、関係継続を決めたとしても、万が一、次に同じ過ちを犯してしまった場合のペナルティやルールを具体的に決めておくことを強くお勧めします。これは相手を縛るためというより、二人の関係を守るための「最後の砦」として機能します。
- 次に裏切ったら婚姻関係を解消する
- 次に裏切ったら一定期間別居する
- 次に裏切ったら償い金(違約金)を支払う
- 次に裏切ったら携帯電話の履歴開示に応じる など
内容は二人の状況に合わせて決めるべきですが、重要なのは、その取り決めを口約束で終わらせず、必ず「合意書」や「誓約書」といった書面に明確に記し、お互いが署名するなどして合意の証を残すことです。可能であれば、その書面を公証役場で「公正証書」にしておくことを検討しましょう。公正証書は法的な証明力・執行力が高く、約束の履行をより確実なものにします。
別れを選択した場合のアクション
もし、様々な角度から検討した結果、関係修復は不可能だと判断し、別れを選択するのであれば、多くの場合、離婚手続きと、精神的苦痛に対する償い(慰謝料)の請求を検討することになります。償いを求める相手や方法はいくつか考えられます。
婚姻解消と、償いの要求
「この人とはもう夫婦としてやっていけない」と決断した場合、離婚手続きを進めると同時に、不貞行為によって受けた精神的な苦痛に対する償いとして慰謝料を請求するのが一般的です。後述するように、慰謝料の請求自体は離婚せずとも可能ですが、一般的に、離婚という重大な結果に至ったケースの方が、慰謝料の算定額は高くなる傾向が見られます。不倫が原因で離婚する場合の慰謝料額は、個々のケースの事情や交渉経過によって大きく変動しますが、弁護士が介入した場合、200万円~300万円程度が一つの目安とされることがあります(これはあくまで一般的な目安であり、保証される金額ではありません)。
婚姻関係は維持しつつ、償いだけを求める
様々な理由(例えば、子どものため、経済的な理由など)から離婚は選択しない場合でも、不貞行為によって受けた心のダメージに対する金銭的な賠償を求めることは、法的に認められています。これは、不貞行為が「夫婦としての平穏な共同生活を送る権利や法的に保護されるべき利益」を侵害する行為(不法行為)であると解釈されるため、離婚の有無とは関係なく損害賠償請求権が発生するからです。ただし、先述したように、離婚しない場合の慰謝料額は、離婚する場合と比較すると低くなる傾向があります。具体的な金額はケースバイケースですが、弁護士が介入した場合、50万円~150万円程度が目安とされることがあります(これも同様に保証される金額ではありません)。
裏切りのもう一方の当事者(不倫相手)に責任を問う
慰謝料の請求は、あなたのパートナーに対してだけでなく、不倫の相手方に対しても行うことができます。なぜなら、不倫相手も、あなたの家庭の平和を乱した共同不法行為者として、損害賠償責任を負う可能性があるからです。ただし、不倫相手に慰謝料を請求するには、一般的に以下の条件を満たしている必要があります。
- 相手が、あなたのパートナーが既婚者であると認識していた(または、少し注意すれば認識できたはずである)こと
- 相手が自らの自由な意思で肉体関係を持ったこと(強要された場合などを除く)
- 不倫が始まった時点で、あなたとパートナーの夫婦関係が既に修復不可能なほど破綻していなかったこと
- 損害賠償請求権の時効(通常、不倫の事実と相手を知った時から3年間、または不倫行為があった時から20年間のいずれか早い方)が成立していないこと
- 相手の身元(氏名・住所など)が判明していること
これらの条件を満たしていない場合、請求が認められない可能性が高いです。特に、あなたのパートナーが独身だと偽り、相手がそれを信じても仕方ない状況だった(過失がない)と判断される場合、相手への請求は困難になることが一般的です。
また、法律上の「不貞行為」とは、一般的に「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係(性交渉またはそれに類する行為)を結ぶこと」とされています。したがって、ハグやデート、食事だけでは、原則として不貞行為には該当せず、慰謝料請求の対象とはならないと考えられています。
関係清算(離婚)へ向けたプロセス
あなたが離婚を決意しても、相手が「離婚したくない」と同意しなければ、自動的に離婚できるわけではありません。当事者同士の話し合いが平行線をたどる場合は、法的なステップを踏んで解決を目指すことになります。
日本の民法第770条1項1号では、配偶者に不貞行為があった場合、離婚を求める裁判を起こす法的根拠がある、と定めています。
(裁判上の離婚) 第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。 一 配偶者に不貞な行為があったとき。 (略) 引用元: e-Gov法令検索|民法
しかし、注意が必要なのは、同条2項の規定です。ここでは、たとえ不貞行為の事実があったとしても、裁判所が諸々の事情(例えば、不貞行為の程度、反省の度合い、子どもの状況、有責配偶者からの離婚請求であるかなど)を考慮し、「まだ婚姻関係を続けるのが妥当だ」と判断すれば、離婚請求が退けられる可能性もある、とされています。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。 引用元: e-Gov法令検索|民法
つまり、裁判で離婚を認めてもらうためには、単に不貞行為があったというだけでなく、それによって夫婦関係が回復不能なほど壊れてしまったことを、客観的な証拠に基づいて示すことが求められるのです。以下に、離婚に向けた具体的な法的手続きの流れを説明します。
ステップ1:夫婦間での協議
何よりもまず、夫婦二人で離婚そのものや、離婚に伴う様々な条件(親権、養育費、財産分与、慰謝料など)について話し合います。これを「協議離婚」と言い、日本の離婚の約9割はこの方法で成立しています。話し合いで全ての条件について合意できれば、役所に離婚届を提出することで離婚が成立します。ただし、後々のトラブルを防ぐため、合意した内容は必ず「離婚協議書」などの書面にまとめ、可能であれば「公正証書」にしておくことを強くお勧めします。公正証書(特に金銭支払いに関する強制執行認諾文言付きのもの)を作成しておけば、養育費などの支払いが滞った場合に、裁判手続きを経ずに相手の給与などを差し押さえる強制執行が可能になります。
ステップ2:家庭裁判所での調停
夫婦間の話し合いで合意できない場合、あるいは相手が話し合いにすら応じない場合は、すぐに裁判に進むのではなく、まず家庭裁判所に「離婚調停」を申し立てるのが原則的な流れです(調停前置主義)。調停では、裁判官と、民間から選ばれた有識者である調停委員(通常、男女各1名)が間に入り、中立的な立場で双方の意見を聞きながら、合意点を探る形で話し合いが進められます。調停は非公開で行われ、多くの場合、当事者が交互に調停室に入って話をするため、相手と直接顔を合わせずに済むこともあります。調停で合意が成立すると、その内容が「調停調書」に記載され、これは裁判の判決と同じ法的効力を持ちます。
ステップ3:最終手段としての裁判(訴訟)
調停でも合意に至らなかった場合、あるいは調停が不成立となった場合には、最終的な手段として、家庭裁判所に「離婚訴訟」を起こし、裁判官に離婚の可否や条件について法的な判断を仰ぐことになります。訴訟は、調停のような話し合いではなく、法廷での主張と証拠に基づいた法的な争いとなります。裁判では、相手の不貞行為の存在や、それによって婚姻関係が破綻したことを、証拠に基づいて具体的に主張・立証する必要があります。訴訟手続きは専門的で複雑なため、ご自身で対応することも法律上は可能ですが、精神的な負担も大きく、有利に手続きを進めるためには、離婚問題に精通した弁護士に依頼することが賢明と言えるでしょう。
償い金(慰謝料)を求めるための手順
不貞行為に対する償い金(慰謝料)を求めたい場合、請求相手はあなたのパートナー、不倫相手、あるいはその両方です。パートナーへの請求は、多くの場合、上記の離婚手続き(協議・調停・訴訟)と並行して行われます。 ここでは、主に不倫相手に対して請求を進める場合の一般的な流れをご説明します。
第一歩:不貞行為の証拠固め
慰謝料請求を成功させるためには、まず、相手が言い逃れできないような客観的な証拠を集めることが、何よりも重要です。証拠が不十分だと、相手が事実を認めず、請求が難航する可能性があります。有効な証拠となり得るものとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 性的な関係をうかがわせる具体的な内容を含むメールやSNS(LINEなど)のメッセージ記録
- ラブホテルやビジネスホテルの利用を示す領収書、クレジットカードの明細、予約履歴など
- 二人で宿泊施設(特にラブホテル)に出入りする様子の写真や動画(日時が特定できるものが望ましい)
- 不貞行為の事実を認める会話の録音データ(反訳書を作成すると良い)
- 不貞行為の事実を認める内容が書かれた本人の自認書や念書
自分での証拠収集が難しい、あるいは相手に気づかれるリスクが高いと感じる場合は、興信所や探偵事務所といった調査の専門機関に依頼する方法もありますが、その費用対効果は慎重に検討する必要があります。
第二歩:請求額の算定と相手との交渉
不貞行為を裏付ける証拠がある程度揃ったら、請求する慰謝料の具体的な額を決め(過去の裁判例などを参考に、弁護士に相談するのが確実です)、相手方に対して支払い交渉を開始します。 交渉の第一歩として、まずは内容証明郵便で請求書を送付し、こちらの請求の意思と法的措置も辞さない姿勢を明確に伝えるのが一般的です。内容証明郵便自体に法的な強制力はありませんが、相手に心理的なプレッシャーを与え、交渉のテーブルにつかせる効果が期待できます。 その後の交渉は、感情的な応酬を避け、後日の証拠とするためにも、記録が残る書面(手紙、FAX)やメールでのやり取りを基本とし、電話の場合は会話内容を録音しておくことが望ましいでしょう。直接対面での交渉は、後で「脅された」「無理やり合意させられた」などと主張されるリスクがあるため、避ける方が賢明です。
第三歩:合意内容の書面化(示談書・公正証書)
交渉の結果、相手が不貞行為の事実と責任を認め、慰謝料の支払い条件などで合意に至った場合は、その内容を必ず「示談書」または「合意書」という形で書面に残します。口約束だけでは効力がなく、後で紛争が再燃する可能性があるため、書面化は必須です。 示談書には、最低限、以下の内容を明確に記載する必要があります。
- 不貞行為の事実認定(当事者、時期、内容など)
- 不倫関係の清算と今後の接触禁止の約束(求償権放棄の有無も明記)
- 慰謝料の確定金額、支払期日、支払方法(一括か分割かなど)
- 本件に関する全ての紛争が解決したことを確認する文言(清算条項)
- 違反した場合のペナルティ(任意ですが、設定しておくと抑止力になります)
特に慰謝料が分割払いになる場合など、支払いの履行に不安がある場合は、示談書の内容を公証役場で「公正証書」として作成することをお勧めします。公正証書(特に強制執行認諾文言付きのもの)があれば、万が一支払いが滞った際に、改めて裁判を起こすことなく、直ちに相手の財産(給与、預金など)を差し押さえる強制執行の手続きをとることが可能になります。
最終段階:訴訟による解決
交渉しても相手が支払いを拒否したり、金額や条件が折り合わなかったりした場合、あるいはそもそも不倫の事実自体を認めないような場合は、最終的な解決手段として、裁判所に損害賠償請求訴訟(慰謝料請求裁判)を提起することになります。 裁判では、原告(あなた)と被告(不倫相手)が、それぞれ主張とそれを裏付ける証拠を提出し、それに基づいて裁判官が法的な判断(判決)を下します。訴訟は専門的な知識と厳格な手続きを要するため、ご自身で対応することは困難な場合が多いです。望む結果を得るためには、この段階では弁護士に代理人を依頼することを強く検討すべきでしょう。
補足:慰謝料の金額は事情により様々
不倫(不貞行為)の慰謝料として認められる金額は、法律で明確に定められているわけではありません。個別のケースごとに、以下のような様々な要素が総合的に考慮されて、裁判官の裁量によって判断されます。
- 婚姻の継続期間(長いほど高額になる傾向)
- 扶養すべき未成熟の子の有無(いる方が高額になる傾向)
- 夫婦双方の年齢、収入、社会的地位
- 不貞行為の期間、頻度、態様など悪質性の度合い(悪質性が高いほど高額)
- 不倫発覚前の夫婦関係の実情(円満だった方が高額になる傾向)
- 不倫が原因で離婚に至ったかどうか(離婚した方が高額になる傾向)
- 不倫相手の資力(支払い能力) など
これらの要素が複雑に絡み合って金額が算定されるため、「相場はいくら」と断定することはできず、あくまでケースバイケースであると理解しておく必要があります。
補足:双方が既婚者(ダブル不倫)だった場合
もし不倫相手も既婚者であった場合(いわゆるダブル不倫)、状況は少し複雑になります。なぜなら、相手の配偶者も、あなたと同様に不貞行為による権利侵害を受けており、あなたのパートナーに対して慰謝料を請求してくることが考えられるからです。 結果として、双方の夫婦間で慰謝料請求が行われる形となり、それぞれの請求額が同程度であれば、実質的に互いの支払いが帳消しになるような形で決着することもあります。ただし、必ず相殺されるわけではなく、それぞれの夫婦の事情や交渉次第で結果は異なります。
一人で悩まず頼れる相談窓口
パートナーの裏切りという、人生を揺るがすような重い問題に直面し、どうしたら良いか分からず途方に暮れてしまうこともあるでしょう。そんな時、どうか一人で抱え込まず、専門家の知恵やサポートを頼ることを考えてみてください。あなたの状況や今求めているものによって、適した相談先が異なります。
証拠収集のプロフェッショナル「探偵・興信所」
慰謝料請求や有利な条件での離婚を目指す上で、不貞行為の確たる証拠は非常に重要です。しかし、相手に気づかれずに、法的に有効となり得る証拠(例えば、ラブホテルへの出入り写真など)を自分で集めるのは、精神的にも技術的にも非常に難しい作業です。そのような場合、調査の専門機関である探偵や興信所に依頼するという選択肢があります。彼らは専門的な調査技術を駆使して、客観的な証拠を収集することが期待できます。ただし、依頼には相応の費用が発生します。調査費用が嵩み、結果的に得られる慰謝料額などを大きく超えてしまう、という本末転倒な事態も起こり得ます。特に高額な調査契約(目安として50万円を超えるような場合)を結ぶ前には、その調査の必要性や費用対効果を十分に吟味することが肝要です。
心の整理や方向性に迷ったら「カウンセリング」
「関係を修復すべきか、それとも別れるべきか、気持ちが揺れて結論が出せない」「誰かにこの苦しい胸の内を打ち明けたい、ただ話を聞いてほしい」「これからどう進めばいいのか、アドバイスが欲しい」そんな風に心が混乱し、方向性を見失っていると感じるなら、夫婦問題や不倫問題を専門とするカウンセラーに相談するのも良いでしょう。カウンセラーは、あなたの気持ちに寄り添いながら、思考や感情を整理する手助けをしてくれます。また、カウンセリングを通じて、今後の選択肢に関する客観的な情報提供を受けたり、必要に応じて弁護士などの他の専門家を紹介してもらえたりすることもあります。まずは話を聞いてもらい、自分の気持ちと向き合う時間を持つために適しています。
法的手続き(慰謝料・離婚)の実行なら「弁護士」
不倫を原因として、具体的に慰謝料を請求したい、あるいは離婚の手続きを進めたいと考えているのであれば、法律の専門家である弁護士に相談・依頼するのが最も確実で効果的な方法と言えるでしょう。慰謝料請求や離婚の法的手続きは、理論上は本人だけでも進められますが、感情的な対立が激しくなりがちな夫婦間の問題では、当事者同士で冷静かつ建設的な話し合いをするのは極めて難しく、かえって問題をこじらせてしまうことも少なくありません。弁護士に依頼すれば、あなたの代理人となり、法的な知識と交渉術を駆使して、冷静かつ戦略的に相手との交渉や法的手続きを進めてくれます。調停や裁判になった場合にも、煩雑な書類作成から法廷での弁論まで、一貫してあなたを強力にサポートし、あなたにとって最善の解決を目指してくれます。多くの法律事務所では、初回相談を無料または比較的安価で受け付けていますので、まずは一度、気軽に相談してみることをお勧めします。
最終的に、あなたが後悔しない選択を
パートナーの不貞行為という、人生における大きな試練に直面したとき、関係を続ける道と、別れを選ぶ道、そのどちらが絶対的に正しいと言えるものではありません。正解は一つではなく、あなたの数だけ存在します。
あなたとパートナーがこれまで築いてきた関係性、お子さんの存在やその想い、経済的な状況、そして何よりも、あなた自身の心が何を求め、どうしたいと願っているのか。様々な要因を、時間をかけて丁寧に考え合わせた上で、出すべき答えは人によって異なります。
もし関係継続を決断するなら、それは決して「負け」ではありません。しかし、同じ過ちが繰り返されないよう、相手と真剣に向き合い、具体的な再発防止策を講じ、壊れた信頼を再構築していく覚悟と努力が不可欠です。
もし別れを選び、法的な責任を問うのであれば、それは新たな人生への第一歩です。感情に流されることなく、専門家の助言を得ながら、冷静かつ着実に手続きを進め、ご自身の権利をしっかりと主張することが望ましいでしょう。
そして、忘れないでください。たとえ関係を続ける選択をしたとしても、裏切りによって受けた心の傷に対する償いを求める権利は、あなたにはあります。
目の前にはいくつかの道があり、どの道を選ぶにしても、簡単な道のりではないかもしれません。焦る必要はありません。ご自身の心としっかり向き合い、様々な情報を参考にしながら、時間がかかっても構いません。あなたが最終的に、「この選択をして良かった」と心から思えるような、納得のいく道を、どうか見つけてください。あなたのこれからの人生が、より良いものになることを願っています。